世界史31 大英帝国2「産業革命が起こした生活の変化」

一般庶民のライフスタイルが激変



産業革命で発生した大きな社会変化の1つは鉄道の登場による交通手段の変化といえる。道路改修、運河建設、鉄道開設、汽船建造、こうして大量生産・大量消費のネットワークが短期集中的に全土くまなく張り巡らされた。


特に鉄道の登場は大きかった。1814年、フランス帝国に対する全面戦争が展開されているとき、ロンドンではスティーブンソンが初の蒸気機関車を開発した。鉄道時代の開幕を告げるテープは、1830年、マンチェスター・リヴァプール間鉄道によって切って落とされた。30年代と40年代の熱狂的な鉄道投資ブームによって、わずか20年ほどのうちに、イギリスに鉄道網がほぼ完備された。


鉄道が整備されるにつれて、都市と地方の格差が急速に縮まった。輸送費が大幅に引き下げられ、石炭や鉱石が産出地から遠く離れた場所でも安く入手できるようになった。鉄道に沿って新しい工業地帯が出現し、そこから鉄道を使って遠く離れた市場まで製品を運ぶこともできるようになった。イギリスは局地的な市場圏を結びつけ、全国的な1つの市場圏をつくるという、これまで長い間かかっても達成されなかった離れ業をやってのけた。

 

鉄道によって地方と都市の物価が平準化した。鉄道時代以前の物価、とくに食料品価格は、地域によってまちまちだった。ある地域では豊作でありながら、そこからさほど離れていない地域では凶作に近い状態が併存していた。しかし鉄道網が、これを解消した。

 

またジャーナリズムが発達し、鉄道による輸送機関の短縮により、さまざまな情報が短期間に各地に流されるようになった。ウェストミンスターの政治情報は、その日のうちに地方をかけめり、最新流行のロンドンのファッションもあっという間に地方に広まり、全国的な均一市場を形成するようになった。


通勤という新しい労働形態が生まれた。これまでの職住一致の伝統的な形態を打ち破り、通勤による職住分離を一般的形態とする新しいライフスタイルを導きだした。通勤が可能になると、今度は、大都市の郊外が大規模に開発されることになり、いわゆるベッドタウンを生み出した。そして下層中流階級の家庭の中には、夫の給料だけで一家を支えることのできる家庭もでき、妻は家事労働を専業とする主婦になった。つまり専業主婦の誕生。専業主義は、これまでは見られなかった家族形態で、鉄道がもたらしたもう1つの新しい家族形態の変化だった。



鉄道によって旅行の大衆化がおこなわれるようになった。旅行は、従来は自家用馬車を所有する上流階級だけに開かれていた特権的レジャーだった。旅行の大衆化によって観光業者が発達し、二、三泊で避暑気分を満喫するサービスや、日曜日の家族連れ日帰り旅行サービスなどが現れた。


鉄道以外では、1809年には蒸気船がはじめて海を運行するようになった。その経済効果は非常に大きいものがあり、外洋輸送の実質コストは、1900年の時点で100年前の7分の1にまで低下した。1860年から急速に、帆船から蒸気船への転換が進み、安定した航行ができる蒸気船の普及は、ヨーロッパから世界各地への移民の増加をもたらした