経営論「方向とスピード」

「答えのない」事に自分で取り組む訓練


新しい日本型のリーダーは、主流で順風満汎に出世してきた人ではなく、傍流で紆余曲折を経験した人に多いことは偶然ではあるまい。


最も重要なリーダーの役目は、まず「方向」を決めること、次が「程度(スピード)」を決めることだ。ところが日本企業では、方向がないのに程度だけを言う経営者が多い。売り上げを1.5倍に増やせとか、経費を2割削れとか、数字だけを目標に掲げる。そういう経営者はリーダーとしては失格だ。

 

なぜリーダーの役目が「方向」を決めることなのかというと、今の世の中は誰も進むべき方向がわからないジャングルであり、少しでも方向を間違えると地獄が待っているからだ。

 

これから日本企業が生き延びていくためには、経営者は進むべき方向と程度を正確に見極めなければいけない。その答えは「右か左か」ではなく「右と左の間」にあるから、資格や試験をクリアする能力だけではどうしようもない。

 

これまでの日本の教育は「答えがある」という前提に基づいてきた。学生か覚えたかどうかをテストでチェックするだけだった。工業化社会の均一化した労働者を作るための教育ならそれでよかったが、その時代はおわった。世界は答えのないものに取り組むことに価値を置く時代に突入したのである。

 

答えがない時代になった以上、先生は「答えを教える」ことはできないのだから、子どもたちが「答えを探して見つける」ための筋道を立てる「伴走者」になるべきなのだ。ゴルフでいえば、何番クラブで、どんな方向に打っていくかはその人しだい。となると、子どもたちと同じ目線で風を読み、ライを見て、クラブやスタンスの選択について助言するキャディのような存在である。

 

飯を食べていくのに必要な21世紀の教育はなにかといえば「英語」「ファイナンス」「IT」が必須項目である。この3種の神器は、大学時代にピカピカに磨いておかねばならない。もう1つ付け加えるべきは、リーダーシップである。「私は特徴のない人間ですが、誰とでも仲良くやっていく自信だけはあります」と挨拶しているようではダメなのだ。(大前研一)