20.3大コスモポリタニズム

大中華圏・英語圏・ユダヤ圏


概要


現在、日本人は冷戦後の世界認識、つまりアメリカ一極支配の視点のまま、多極化時代に突入しようとしている。アメリカ視点で認識できる「世界」はきわめて限定的であり、大きく歪められた「世界」像しか見えなくなる。そこでいまこそ、時代や環境の制約を乗り越えて「世界を知る力」を高めることが痛切に求められているのである。

 

これからは、目に見えないネットワークに着目することが重要だ。ネットワーク型の視界をもつというのは、一見バラバラに見える断片的な現象、情報に対して「相関の知」を働かせることだ。それは、地理的なネットワークや経済的なネットワークに限らない。


■大中華圏

まず「大中華圏」中華人民共和国に台湾、香港、それから華僑国家とよばれるシンガポールを含めた産業的実体のネットワークだ。香港は、返還後、一国ニ制度の下、資本主義システムのまま、金融や流通、文化の一大交差点として香港を発展しつづけ、国内とアジア、そして世界をつなぐ大中華圏の基点となった。また、台湾は1つの中国という原則を維持しながらも、経済協力を推進し人的・文化的交流を深めるほど、したたか、かつ柔軟に対応してきたといえる。


特にこれから重要なのがシンガポールだ。シンガポールは、現在「大中華圏の研究開発センター」となっており、ゲノム科学、バイオテクノロジーの先端的な研究を背景にし、他の国では受けられない様な先進医療を受けるため、中国本土から中国人富裕層が大挙してやってくるようになった。


■英語圏

またシンガポールは、大英帝国の支配下にあった主要都市(ロンドン、ドバイ、インドのバンガロール、シンガポール、オーストラリア)をつないだネットワーク「ユニオンジャックの矢」の一部でもある。ロンドンは、シンガポールがASEANの窓口となっていることに着目し、その人の流れをロンドンに取り組むことで、ロンドンをアジアと欧州につなぐゲートウェイにしよう考えたのである。


シンガポールはしばしば「バーチャル国家」といわれる。土地、資源、原材料という生産要素よりも、良質の労働力、資本、情報をもっぱら重視する国家。そしてほかの地域にある身体を結びつける神経のようなもの。バーチャル国家を根底から支えるのもネットワークであるのだ。

 

■ユダヤ圏

そして、古くからある国際ユダヤ人によるユダヤネットワークにも注目したい。ユダヤ的思想の基軸は2つある。「国際主義」と「高付加価値主義」だ。国家という枠組みよりも、国境を越えた価値を重視する視点。これを「ユダヤグローバリズム」「ユダヤ国際主義」と呼ぶ。高付加価値主義とは、無から有を生み出すことに最大の価値を見出す視点だ。

 

国家を喪失し、離散と流浪を余儀なくされるなか、ユダヤ人は、科学技術、芸術、金融、ジャーナリズム、弁護士、医学など技術や情報など頭ひとつで労働できる方法を考えたのだ。決して遺伝的に優れていたわけではなく、環境がそうさせたのだ。アメリカ一極支配の基軸は「国際主義」と「高付加価値主義」のユダヤ的思考に引っ張られてきたともいえる。

 

こうして多極化していくなかで、ユダヤ的思考やシンガポールを中心とした華僑ネットワーク型など、国境を超える分散型ネットワークが、うねりのような相関のなかで、世界を動かしていくのが21世紀の構図だろう。そのため、ネットワークを形成できる国や地域だけが力を発揮できる時代へと、現実は向かいつつある。いまのアジアをとらえるのに「雁行形態論」はもはや有用なツールとはいえない。どこかの国が先頭に立ってアジア全体をリードするという時代ではなくなっているのだ。(参考文献:世界を知る力 寺島実郎)