ジャック・アタリ「21世紀の歴史」

21世紀の歴史 / A Brief History of the Future

今後50年の地球の歴史を予測


概要


過去


「21世紀の歴史」(原題:A Brief History of the Future)は、今後50年の地球の歴史を予測した本。著者はジャック・アタリ。原本は2006年にフランスのファヨード社から刊行され、日本では2008年に日本語版(翻訳:林昌宏)が刊行されている。


本全体の最初の3分の1は、先史時代から今日までの人類の歴史をたどりながら、1200年ごろに資本主義が発生したことをまず主張する。そしてフランスの神話学者デュメジルの三機能仮説(宗教、軍事、経済)を引用しつつ、アタリが独自に「儀式の秩序」「皇帝の秩序」「商人の秩序」の3つの世界秩序を挙げ、現在は「商人の秩序」がほかの2つの秩序に取って代わった時代であると説明している。


「商人の秩序」の世界では、これまで、技術革新を伴った9つの「中心都市」を世界の舞台になってきたという。中心都市は以下の9つである。


1.ブルージュ:舵の発明

2.ヴェニス:キャラベル船の発明

3.アントワープ:印刷機の発明

4.ジェノヴァ:複式簿記など経理の発展

5.アムステルダム:フリュートの発明

6.ロンドン:蒸気機関の発明

7.ボストン:内燃機関の発明

8.ニューヨーク:電気の発明

9.ロサンゼルス:マイクロチップの発明


新たなサービスを産業製品に変える手段を統合できると、都市は「中心都市」に進化する。また中心都市の周辺は、中心都市に一次産品や労働力を供与することによって周辺都市となる。

現在


現在から未来に関する部分は、第三章「アメリカ帝国の終焉」から始まる。9番目の中心都市である現在のロサンゼルスの話から始まり、アメリカの衰退と同時に多極化時代に台頭するさまざまな国や、アメリカ帝国の終焉が予測される2035年ごろまでに出現が予測されるテクノロジーやサービスなどが記述されている。

 

台頭する国としては、日本、中国、インド、ロシア、インドネシア、韓国、オーストラリア、カナダ、南アフリカ、ブラジル、メキシコの11カ国である。さらにこれを追うのがアルゼンチン、イラン、ベトナム、マレーシア、フィリピン、ベネズエラ、カザフスタン、トルコ、パキスタン、サウジアラビア、アルジェリア、モロッコ、ナイジェリア、エジプトである。

 

また多極化と平行して、インターネットの発達のよう技術的革新の産物として、ノマディゼーションの時代へ移行、ゲルマン民族以来の人類の大移動が始まることを予測する。職を探すために南の国から大量の移民が北の国へ移動しはじめ、また農村から都市へ大量の人々が移動する。特に都市部の人口は爆発的に増えるという。

 

 

未来


残りのページと章は、本書の核である「超帝国」「超紛争」「超民主主義」の3つの波についての解説となる。

 

多極化とノマディゼーションの行き着く先は、国家も含めて、障害となるすべてのものに対してマネーで決着を付けることになる。国家の法の力が弱体化し、市場の秩序で形成される世界システムをアタリは「超帝国」と呼ぶ。これは、アントニオ・ネグリとマイケル・ハートの著作「帝国」と近い概念である。

 

超帝国の世界では、自然環境は食い物にされ、軍隊・警察・裁判所・病院・学校などあらゆる公的機関が民営化される。また、支配階級の「ハイパーノマド」、ミドルクラスの「ヴァーチャルノマド」、下層クラスの「下層ノマド」の3つのクラスが形成されるという。

 

超帝国が進む中で、極度の格差社会や退行的な残虐行為や破壊的な戦いに陥る。国家、宗教団体、テロ組織、海賊が対立しあうようになる。本書においてアタリは、こうした戦闘状態の時代を「超紛争」と呼ぶ。

 

最後に、グローバル化を規制し、民主主義が地球規模に広がるのであれば、自由・責任・尊厳・超越・他者への尊敬などに関して新たな境地が開かれるようになる。本書では、こうした境地を「超民主主義」と呼ぶ。

 

この3つの波が、今後50年で混ざり合って押し寄せくることをアタリは確信している。

目次


序文:21世紀の歴史を概観する

・3つの波が、21世紀世界を決定する

・未来の歴史を記述することは、可能なのか?

・2035年:「市場民主主義」のグローバル化とアメリカ帝国の没落

・人類壊滅の危機:国家の弱体化と「超帝国」の誕生

・2060年:「超民主主義」の登場

・なぜ本書を執筆したのか?

 

第一章:人類が、市場を発明するまでの長い歴史

1:宗教・軍事・市場:人類史を動かしてきた3つの秩序

2:ノマド・カニバ二スム・性欲:人類の誕生と知識の伝承

3:神・近親相姦の忌避・定住化:「ノマド」と「定住民」の衝突

4:「帝国の秩序」から「市場の秩序」へ

 

第二章:資本主義は、いかなる歴史を作ってきたのか?

1:「市場民主主義」の誕生:紀元前12世紀

2:「自由」こそ究極の目的:古代ユダヤ・ギリシャの理想

3:市場、都市、そして国家の形成:4〜12世紀

4:歴史を動かす鍵「中心都市」とは?

5:資本主義が世界で産声をあげた:ブルージュ:1200年〜1350年

6:アジアと通じるものが世界を制す:ヴェネチア:1350年〜1500年

7:印刷技術が世界を変革する:アントワープ:1500年〜1560年

8:投機という芸術が世界を席巻する:ジェノヴァ:1560年〜1620年

9:洗練された船が世界をつなぐ:アムステルダム:1620年〜1788年

10:蒸気機関という動力が世界を動かす:ロンドン:1788年〜1890年

11:内燃機関が世界を小さくした:ボストン:1890年〜1929年

12:そして電気が、世界に革命をもたらした:ニューヨーク:1929年〜1980年

13:オブジェ・ノマドは、世界をどう変えるのか?:ロサンゼルス:1980年〜現在

14:アメリカ、終焉の始まり

 

第三章:アメリカ帝国の終焉

1:アメリカには残された未来はあるのか?

2:史上9番目の「中心都市」の週末:2025年

3:次に世界を制するのはどこか?:台頭する11カ国と20カ国

4:ついに、時間までも商品となる

5:歴史を変える「ユビキタス・ノマド」の登場

6:高齢化し、朽ち果てる世界

7:都市はどのように変貌するのか?

8:地球環境の未来:解消することのできない希少なものとは?

9:もうテクノロジーは奇跡を演じることはできないか?

10:時間:残された唯一、本当に稀少なもの

11:アメリカン・ドリームの黄昏

12:はたして、アメリカが歴史を創ることはもうないのか?

13:10番目の「中心都市」の可能性

 

第四章:帝国を超える「超帝国」の出現:21世紀に押し寄せる第一波

1:民主主義・政府・国家を破壊する「超帝国」

2:多極化する世界:市場と民主主義の蜜月の終わり

3:代替される国家機能:「超監視体制」から「自己監視体制」へ

4:国家は解体されるのか?

5:徹底的な商品化と市民の孤立化

6:21世紀の企業のあり方:「劇団型企業」と「サーカス型企業」

7:「超帝国:の支配者とは?

8:中産階級の行方:ヴァーチャル:ノマド化とスポーツへの熱狂

9:「下層ノマド」が「超帝国」を揺るがす:増大する負け組たち

10:国家なき市場のガバナンス

11:2050年、はたして人類は現状に満足しているのだろうか?

 

第五章:戦争・紛争を超える「超紛争」の発生:21世紀に押し寄せる第二波

1:国家の弱体化、地域紛争の続発

2:世界の「多極化」と剥きだしになる各国の野心

3:「海賊」と私設軍隊の衝突

4:反グローバリゼーション運動の行方

5:宗教原理主義の行方:怒れる信者たち

6:想像を絶する兵器の登場

7:いかに武装し、誰が味方となるのか?

8:いかに交渉し、誰を支援するのか?

9:好戦的国家体制・海賊への説得と先制攻撃

10:希少資源をめぐる紛争:石油と水

11:国境をめぐる紛争:中東からアフリカ地域

12:国民世論の関心をそらすための紛争

13:「海賊」と「定住民」の紛争

14:「超紛争」の発生:私たちには凄惨な世界しか待っていないのか?

 

第六章:民主主義を超える「超民主主義」の出現:21世紀に押し寄せる第三波

1:人類は自滅から逃れられるのか?

2:「超民主主義」という衝撃

3:新たな歴史の担い手たち:トランスヒューマンと調和重視企業

4:いかなる制度・機構をもつのか?

5:市場と民主主義はどうなるのか?

6:国家・企業・共同体の変貌:共通資本となる「世界規模のインテリジェンス」

7:個人の変貌:必需財となる「心地よい時間」

8:「超民主主義」は悪用から逃れられるのか?

 

付論:フランスは、21世紀の歴史を生き残れるか?

1:フランスの21世紀の歴史

2:フランスの現状

3:凋落するフランス

4:明日にも危機が迫っている

5:受け継いだ未来を、未来に返すために

6:21世紀の歴史から見出される6つの改革

 

21世紀を読み解くためのキーワード集

 

訳者あとがき

  • 単行本: 352ページ
  • 出版社: 作品社 (2008/8/30)
  • ISBN-10: 4861821959
  • ISBN-13: 978-4861821950
  • 発売日: 2008/8/30
  • 商品パッケージの寸法: 17.8 x 13.8 x 4.2 cm
21世紀の歴史――未来の人類から見た世界
ジャック・アタリ
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