【作品解説】エリック・ホッファー「大衆運動」

大衆運動の本質を暴いた社会科学の古典


概要


本書は「Eric Hoffer,The True Believer-Thoughts on the Nature of Mass Movements,(New York:1951, Harper & Brothers)の全訳である。「大衆運動の本質に関する考察」という原書の副題がしめすとおり、ファシズムや共産主義の発展時に起こりがちな「大衆運動」の本質を明らかにするものである。この本でホッファーは、人間の心の中に潜む“madhousese(狂信行動)"へと向かう原因を突き止めようとした。

ホッファーの基本的な考え方は、宗教や政治における狂信行動や極端な文化運動は、突発的な出来事ではなく、きちんと予測可能な状況で発生するということである。ホッファーによれば、近代社会は、大衆が欲求不満にさいなまれ、自己の存在の意味に対して自身を喪失し、自分が役に立たないと感じ始めたときに取り返しのつかない崩壊を起こすという。

 

このような欲求に苛まれた大衆は、ほぼ「共同行動」「自己犠牲」の傾向が生じるという。大衆の主要な要求は、「無力な自己から逃避」と「急進的な改善」である。大衆の唯一の希望となるのは、急進的な現実変革の要求であり、その実現のために、最も効果的であろうと理由から大衆運動に参加するという。また大衆運動に参加することで、自らの個性を結束の固い集合的全体のなかで失うことによって欲求を満たされるという。

 

集団に完全に融合された個人は、自分自身をも他人をも人間としては考えなくなる。「お前は何者か?」と尋ねられたとき、彼の無意識の返答は、「自分はドイツ人である」「自分はキリスト教徒である」あるいは家族の一員であるといった感じで、職能や肩書きではなく所属集団を主張するという。その理由は、自分の属する集合体を離れては、いかなる目的も、価値も、運命も個人には存在しないからである。自分自身に自信がもてないのである。しかし、集合体が存在するかぎりは、個人もまた永遠に生き続け、「生」を確認することができるのだという。

 

またホッファーによれば、大衆運動の指導者たちの多くは、元々、知的落第者であり知的コンプレッスクを持っているという。アカデミー試験に何度も失敗していたアドルフ・ヒトラーをはじめ、科挙試験の失敗に執着していた太平天国の乱の指導者洪秀全はなどが代表的な人物で、そうした心理的背景から反知性主義的な大衆運動を率いるようになるという。

 

大衆運動はさまざまな運動において交換可能である。1920年代や30年代におけるドイツの共産主義者とナチスのメンバーは表向きは敵対しているわけではなく、共産主義とナチスを日常的に掛け持ちしていた。大衆はふつう効果的な運動なら何にでも参加したがっているのであり、なにも特別な主義と計画とをもった1つの運動に対してだけ参加したいと思っているのではない。大衆運動は、その敵対者を自分たちの潜在的な味方と見なす傾向があり、たとえばヒトラーはドイツの共産主義者を、潜在的な国家主義者とみなしていた。日本においても、左翼(社会主義)の団塊のおっさんはたいてい民族主義をかけもちしている


ユダヤ教、原始キリスト教に始まり、ナチズム、共産主義、そして日本の近代化までをも含む大衆運動の核心に迫ろうとする本書は、1951年に発行されて以来、大きな反響を呼んだ。今日までに50万部以上販売し、数カ国語に翻訳され、現在では、社会思想と社会科学との古典としての地位を獲得している。エリック・ホッファーの名前が世に知られるようになったのも本書がきっかけである。


目次


原著者序文

第一部 大衆運動の魅力

 ・第一章 変化を求める欲望

 ・第二章 身代わりを求める欲望

 ・第三章 大衆運動間の交流


第二部 潜在的回心者

 ・第四章 好ましからざる人びとの社会的役割

 ・第五章 貧困者

 ・第六章 不適応者

 ・第七章 極端な利己主義者

 ・第八章 無限の機会に直面している野心家

 ・第九章 少数派

 ・第十章 退屈している人

 ・第十一章 罪人


第三部 共同行動と自己犠牲

 ・第十二章 序説

 ・第十三章 自己犠牲を促進させる要因

 ・第十四章 統一の動因


第四部 発端から終焉まで

 ・第十五章 言論人

 ・第十六章 狂信者

 ・第十七章 実際的な活動家

 ・第十八章 大衆運動の良否


訳者あとがき

単行本: 194ページ

出版社: 紀伊國屋書店; 復刊版 (2003/2/18)

言語: 日本語

isbn-10: 4314009357

isbn-13: 978-4314009355

発売日: 2003/2/18

商品パッケージの寸法: 19 x 13 x 2 cm